環境政策と環境技術対策-地球温暖化防止の環境戦略―
テーマ:「環境政策と環境技術対策-地球温暖化防止の環境戦略―」
キーワード 温暖化、環境政策、環境技術、環境税、排出権取引、京都議定書
講 師:植田 和弘氏 京都大学大学院経済学研究科、地球環境学堂教授(工学博士,経済学博士)
●プロフィール:1952年香川県生まれ。1975年京都大学工学部卒業後、大阪大学大学院博士過程終了。1994年京都大学教授、専攻は環境経済学、財政学。著書:「環境経済学」など多数。
2005年2月、京都議定書の発効を控えて特別講演会で解説していただいた。要旨を下記にしめす。
1.政策が技術を進歩させた
1977年にOECDの調査団がまとめたわが国の公害対策について、政策により目標が与えられた結果、技術が進んだように書かれているが、地球温暖化対策も同様な面がある。
1997年に京都議定書が合意され、ロシアの批准により本年2月に発効し、国際ルールが動き出す(現在142カ国が批准)。わが国も政府の温暖化防止推進大綱が防止計画に変わる。
最大のCO2排出国である米国が批准していない理由は、①世界第2の排出国である中国が入っていない。②経済成長を阻害する。③ブッシュ政権はゴア元副大統領が京都議定書に関与したのが嫌。などで、ゴアを後押しした企業も多いし、カリフォルニア州のように炭素税に取り組んでいる州もあり、懐が深い米国では、進んだ政策が出てくる可能性がある。
2.環境税と環境政策の検討経過
環境税の検討案が示され(植田先生も委員)、環境省は必要といっているが、経済産業省はこれがなくてもCO2削減目標は達成できるとしている。
「税」は政治であり、市場メカニズムでなく、政治プロセスの中で決まるが、ドイツが1990年にすでに導入すべきとしたのに比べると日本は10年遅れている。この税は環境税といっているが、CO2(C)を減らす炭素税を念頭に置いた温暖化対策税が正確な言い方である。
環境税の概念は1920年に発表され、国際的には1990年のフィンランドが最初に導入した。空気のように価格のつかない価値物は過剰利用する恐れがあるためである。
1960年には環境省などはどこの国にもなく、1970年に米国、1971年に日本に環境庁ができ、1990年には全ての先進国、大半の途上国に環境部門ができている。日本では1960年代に東京など大都市で公害防止協定ができ、これには法的根拠がないのに対策が進んだ。1970年代末にドイツなどから調査団が来、これが守られているのが不思議がられたもので、決して従来からドイツの対策が進んでいたのではない。
環境税は1980年代に議論が進み1990年代に北欧で導入、2000年を過ぎてドイツ、イタリア、イギリスなどが導入し、日本も動き出した。2003年の専門員会の報告(3600円/トン、税収1兆円)が、環境省案では2400円/トン、税収約5000億円になり、理念が分からなくなってきた。
3.環境税を何に使うか
当初は温暖化対策のための補助金で戻すことを考えていたが、ガソリンへの課税が1.5円程度では、消費者の行動を変えさせるのは難しい。世論をどのように刺激するか、現在は内1500億円を社会保険料の軽減に使う。EUでは税制を改革し、雇用を増やすため成長が必要との観点から多目的に考え、環境破壊なき雇用の実現を目指している。
日本では一般財源にするか、目的税にするかの議論があるが、目的税である石油特別会計などの弊害が出てきつつあり、道路整備より高齢化対策など優先順位が変わってきている。世論調査では、環境対策に使ってほしい、自分がわかるところに使ってほしいという国民の意識がある。温暖化対策費が毎年1兆円以上使われているが、中身は新幹線や道路整備では納得感が低く、対策の見直しが重要であるが、各省の権益に関わる政治の問題である。この問題は避けて通れない議論でありダイナミズム、進化しながら対策が進む。
4.排出権取引とクリーン開発メカニズム(CDM)
排出権取引制度は元々は米国が酸性雨対策で導入したもので、土地のように売買できる金融商品である。EUでは導入の動きがあり、将来的には確実に世界市場ができる重要な仕組みである。CDMは先進国が途上国のCO2排出抑制を進めて、評価を得る制度であるが、まだルールが機能していない。
5.問題をポジティブに捉えよう!
ポーター仮説では日本やドイツは70年代、80年代の厳しい規制が、生産性を伸ばしたとしている。必要は発明の母であり、環境面では自動車は将来を見据えて、すでに内部競争になっている。排ガス規制のように世界一の技術を目指さないと生き残れない。また、環境技術は生産技術と関わりが深く、プロダクツとプロセスを最初から考え、車全体を見直しながら取り組む必要がある。
エネルギーは何かをするために使うもので、短期及び中長期を考える必要がある。時間をかけて新しい機器に変わっていくもので、住宅や交通も同様である。環境都市として有名なフライブルクで太陽エネルギーの利用について見本市があったが、製品の価値、街の価値が共に上がる。
Q&A
Q:将来的にエネルギーがなくなる時のことをどう考えるのか
⇒かってローマクラブが「成長の限界」を発表したが、実際はマーケットと技術の可能性を引出すことになり、対策が進んだ。生活の質と物質の使用については、資源生産性などにより多くの満足を得られるし、適応力はある。枯渇性資源は投資ルールを入れ、サステイナビリティを経済理論にいれると技術が出てくるが、同時に生命維持装置としての汚染物対策が重要である。
Q:京都メカニズムのメインの対策は税金か。CDMは?・
⇒①制度・政策の設計と、②温暖化対策、脱CO2の地域の造りかえがある、中国ではいずれ8億台の自動車需要ポテンシャルがあるが、違うモデルが必要になる。技術の役割を制度・政策が支援するものであり、排出権取引、CDMも大事であるが、今の日本では税が優先する。
Q:中国の経済成長を見ていると環境どころではないのでは?
⇒中国は経済発展の低い段階で環境部局を作った。また、大国意識があり、米国に対し発言力を持とうとしている。局地的な問題もあるが、硫黄酸化物の排出量が低下しているという統計もあるし、公害裁判も起こっている。中国のダイナミズム、国際公共財として中国の環境に日本も協力が必要でありODA議論も環境ODAにする方法もある。
Q:京都メカニズムの目標値として560ppm程度を想定しているが、その評価は?
⇒温暖化がどのように気候変動を伴うか完全には分かっていない。国際政治の場で動いたもので、数値の根拠はない。IPCCでは世界の研究成果を調べ、確認していうる。人為的なものによる変化はあるので、国際環境法にある「予防原則」の考え方で大幅な削減対策が必要である。
Q:税金のかけ方について、例えばコージェネレーションの普及を進める方向になっていない。
⇒環境税について不満は分かる。税収とのセットであり、環境政策の議論は最後は財務省の考えに左右される。最初は小さくても仕組みに入れておくということで、国民の監視が必要。
Q:共生経済をめざすためにバイオフューエル(菜の花プロジェクト)などは?
⇒発想は悪くない。地域を活性化するためには有効であるが、温暖化の効果は大きくない。それより今後はバイオマスが大切である。
Q:日本は現状から14%のCO2削減が必要。一方、EUでは対策が進んでいるが?
⇒制度、政策のイノベーションが違う。ライフスタイルの変革ということでシャワーの抑制を超えられない。達成するための仕組みが必要である。
★ コメント:技術と政策との関わりについて、技術をしっかり踏まえた上での分かりやすい解説であり、考えさせられることが多かった。 (山本 泰三 記)